前提を前に押し出そう。一般人にどうして学生がデモを行っているのかが理解されていない。これは問題だ。
そして、この三月の頭に学費の吊り上げと学生の締め出しに対する学生デモがあった。
日本にはあまり無い事なのだが、カルフォルニア大学というのは、カルフォルニア州民の税金によって運用されている学校だ。世界レベルの研究・教育を行う場所であり、公的資金の代わりに「入学に値する学生をすべて受け入れる」という公約があるのだ。来るもの拒まず。すごく、壮大な夢を根本とした学校である。
その結果として、州の人口が増えると共に学校の学生数も増える。その中で学生数を絞るというのは大きく学校の行動原理に反する行動である。どれだけの財政難か、はそこで察して欲しいのだが…
もっと実直に事を説明しよう。前年度の学部予算が15%削減された。研究、人員、資材。すべてにだ。そして今年の学部予算がさらに13%削減される。同じく、研究、人員、資材だ。院生を教員として給料を払う予算もなくなっている。基礎化学の講義にはTAと言う院生講師がさっぱりいなくなるという話だ。その代わり、ネット上のFAQと外部の委託業者による授業が行われる。
化学部のもっとも大きな講義であり、学部のすべての学生が取る基礎の基礎の基礎が、だ。
それが委託業者のネットFAQで賄えるようなものではないはずだ。
とはいえ、予算の二割が削られるというのはそれだけに逼迫した状況だ。その上にある問題が学費があがった事だ。去年は14%増し。今年の頭で32%増し。学生にしてみたら水増しされて薄くなった授業に法外な料金を支払っている物だ。怒りたくもなる。
しかし、それはカルフォルニア州民の税金から生徒一人当たりに掛かるお金の6割を免除しているからだ。もし生徒が全額支払うとなったら、スタンフォードのような私立校と並ぶ現在の三倍の額になる。そのうち、米国政府からの資金もある。公的な学校は公的な結果を出す、投資なのだから。
そして、昨日バス停で話した一般の人にしてみれば不可解な事らしい。「大学に行った事が無い、一般の社会人」な人にしてみればあれだけ支払っている多大な税金で学校に行かせてもらっている金持ちの子女達がもっとお金を欲しいと駄々を捏ねている。こう見えるみたいなのだ。
学力と一家の収入は比例する。裕福な地域は進学率が高い。そして、文系はその学ぶ意味がつかみづらい。文系の学生でさえ「別にこれでなにか職に就くわけじゃない」とあきらめが見えるのだから外から見て「文学の勉強してなんの役に立つ」といわれると反論が難しい。
教育そのものに意味や意図は無い、といえば楽だろう。基礎研究をしている身としては自分のしている事が目に見えるような実を結ぶ事はまず無いと思う。それでも、どうこうするための工学部とは違う探究心、好奇心、知識欲を満足させる為の基礎研究は必要と感じる。半導体や発光ダイオード。こういった技術革新もまたそうしようとして発見したわけではないのだから。(とはいえ、エンジニアは重要だ。発見した物を形にするまでが純科学者には難しい)文系もリターンが少ないからと切り捨てるようでは、文化衰退する。歴史や社会学。文学や音楽。価値は人間の価値観と思考能力をを養う事にある、と思うのだが。
教育機関をすべてFor Profitな利益を出す会社にしてしまうべきだと言われて初めてそういう視点に気づく。恥ずかしい事だ。市民は結果を求める。警察には犯罪の取り締まりを、市には道路の穴をふさいだり、消防所には火消しを。その中で大学は何をしているのかがさっぱり分からない。大学経験者は理解できるが、大学に興味が無かった人や行かなかった人には理解ができない価値。工学部や科学部は目に見える結果を出すからいいだろう。でも、利益を出すのならその基礎研究は会社がすべきじゃないのか?なんで税金という名の搾取を受けているんだ?
こういった疑問なのだ。結果が見えない。そういう事だ。
その上で「お金をもっとだせ」。意味が分からないというのも頷ける。
一方には収入源が削られ、学費が大幅に上がる中。本職である研究もできずに必死にバイトに走ってギリギリの生活を挑んでいる院生からしてみれば理不尽に感じる所だが。また、一般の人もデモを不可解な理不尽と感じるのだろう。
基本的に教育の恩恵を受けていない人は教育の価値を理解できていない。その必要性に対する感情が希薄なのだ。なぜ学校があるのかすら理解しない。根本から違う価値観。教育は金持ちの道楽、とすら考えているのだろう。なぜなら、教育による社会への貢献が彼には見えないのだから。
色々と考える所があるが、まぁこんな所かもしれない。
今現在駐車場で酔って騒いでいる学生が青春を楽しんでいる中、その感情も理解できる。だが、立派に貧困者として社会援助を貰ってなんとか食いつないでいる学生もいるとアピールしたい。みんな厳しいんだ。深夜に騒いでる駐車場のヤツラは別として、だ。(笑)
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